はじめに

損害保険とは,保険者(保険会社)が一定の偶然の事故によって生ずることのある損害を塡補することを約するものをいいます(保険法2条6号)。言っている意味が分からないと思いますが,要は,偶然起きた事故で物が壊れたとか,怪我をしたという「損害」が発生した場合に保険金を支払うという保険のことです。

損害保険には無数といってもいいくらいに種類があります。例えば,興行中止保険という損害保険はコンサートなどが台風などで中止になった場合の損害を塡補する保険です。理論上はありとあらゆる偶然の事故による損害が損害保険の対象となるのですが,実際に支払いが発生する保険というのはある程度限られています。

日本損害保険協会の平成25年度のデータによれば,損害保険会社の元受正味支払保険金のシェアは次のとおりとなっています。

1.自動車保険(任意保険) 2兆2139億7200万円
2.自賠責保険(強制保険) 8043億7000万円
3.火災保険 6357億3200万円
4.新種保険 5128億0700万円
5.傷害保険 3514億8200万円

通常,1と2は同じ交通事故で支払われるものなので,自動車保険が圧倒的な支払いシェアであることが分かります。東京海上日動火災保険は元々,東京海上火災保険という海上保険から出発した会社と日動火災海上保険という動産保険(日動は日本動産の略です。)の会社が合併してできた会社ですが,現在の事業の過半は自動車保険です(有価証券報告書によれば,平成26年3月期で元受正味保険料のうち自動車保険の任意保険43.78%,強制保険11.99%,合計55.77%を占めています。)。
自動車保険についてはたくさん取り扱っている弁護士がいるので(もちろん,我々もたくさん取り扱っています。),保険弁護士法律相談所では自動車保険以外の保険に力を入れていきたいと思います。

火災保険

火災保険とは,火災という偶然な事故によって発生した損害を塡補する損害保険です。ただし,通常は,火災だけでなく風水害などによる事故の補償もセットになっているはずです。例えば,東京海上日動火災保険の個人向け火災保険である「トータルアシスト住まいの保険」の基本補償は,次のリスクに備えるものとなっています。
火災リスク(火災,落雷,爆裂・爆発)
風災リスク(風災,雹災,雪災)
水災リスク
盗難・水濡れリスク(盗難,水濡れ,建物外部からの物体の衝突,労働争議等に伴う破壊行為等)
破損等リスク

よく問題となる事件]

火災保険で問題となる類型はだいたい決まっています。

相談件数ナンバーワンは?

弁護士として受ける最も多い火災保険の相談は,意外に思うかも知れませんが,水漏れ事故です。水漏れ事故の原因には台風などの雨水によるものや,建物内部の給排水設備の故障などがあり,また,その原因が自分にあるもの,他人にあるもの,天変地異によるものがあります。原因次第で保険金が出たり出なかったりし,さらには,保険金の金額について争われることが多いです。
雨水による漏水事故での典型的な紛争パターンは次のようなものです。
建物と家財を対象とする火災保険に入っていた。久しぶりに別荘に行ったら部屋中が水浸しでカビだらけになっていた。保険会社に連絡したら,雨水の吹き込みが原因の場合は火災保険金は支払いませんと言われた。しかし,外側から建物を見ると,どうも屋根の一部が台風で壊れていてここから雨水が入っていたようだった。
通常,建物に雨が吹き込んだことによる損害(通称は「吹き込み損害」です。)は支払の対象となりません(こうした保険金が支払われないことを「免責」「免責事故」といいます。)。「吹き込み」というのは,窓を開けっ放しにしていたら雨が部屋の中に入ってきたとか,屋根が古くて雨水が染み出してきたといったことを意味します。
しかし,台風で瓦が飛ばされたとか,看板が飛んできて窓が壊れた場合で,その壊れた箇所から雨水が染み出した場合は保険金が支払われます(このように保険金が支払われることを「有責」「有責事故」といいます。)。
そうすると,保険会社に対して,この雨水は,屋根が壊れたことによる損害なんですよ,と資料を付して交渉することで,「免責」だったはずの火災保険を「有責」にすることができます。

深刻な争いナンバーワンは?

昔から保険会社と契約者との間で深刻な争いになるのが,建物火災による火災保険金の支払を巡る紛争です。かつては暴力団関係者が組織的に火災を起こして保険金詐欺を働くということがありましたが(「ラベンダー事件」で検索してみて下さい。),今ではそうした事件は少なくなりました。その分,本当に失火・放火による火災なのに,保険金詐欺だと疑われて,家はなくなり,保険金ももらえないという気の毒な契約者の割合は増えていると思われます。
と言っても,保険会社はほとんどの火災について火災保険金を支払っています。疑われる事件というのは決まっていて,次の事情が複数ある場合に限られます。保険会社があやしいと思う場合です。なお,こうした保険金詐欺が疑われる事案のことを「モラルリスク」がある事件,略して「モラル」といいます。この「モラル」とは「モラル・ハザード」の「モラル」=「道徳」で,保険金を取得するために故意に保険事故を起こすような道徳的危機のことを意味します。

出火原因が放火であること。
放火と断定できなくても出火原因に作成が疑われること。
施錠していない・鍵が見当たらないなど鍵の管理状況が不自然であること。
契約者の事故前後の行動があやしいこと。
契約者の言動が不自然だったり,ころころと変わったりすること。
契約者に経済的問題があること。
過大な保険金が掛けられていること。
火災の直前に保険に入っていること。
過去に契約者が保険金を請求していること。

個人賠償責任保険

最近,大きく取り扱われるようになってきたのが個人賠償責任保険です。はぁ? 何それ? と思われるかも知れませんが,今や,ある日突然生活が破滅するようなリスクを回避するために必ず加入しておくべき保険です。具体的に個人賠償責任保険を使用する事案は次のような場合です。
自転車で道を走っていたら子どもが飛び出してきて,子どもと自転車の前輪が接触した。子どもの怪我について,その親から治療費や慰謝料の支払いを求められた。
自転車での事故でも歩行者同士の事故でも,理論上は,損害賠償の金額は変わりません。したがって,軽度のむちうちであっても,被害者が3か月,4か月と病院に通えば,数十万円の賠償額になります。これは気軽に支払える金額ではありません。
こうした故意又は過失によって発生する事故・事件のことを「不法行為」(民法709条)といいますが,個人賠償責任保険(通称「個賠」といいます。)は、過失の不法行為で他人に損害を与えた場合に、保険でその損害賠償金をカバーする保険です。
個人賠償責任保険に入らずに自転車に乗ることは極めて危険な行為です。
また、自転車に限らず、例えば、通勤中に階段で人と接触する場合など、人に怪我をさせてしまうことはかなりあります。大して保険料もかからないので、ぜひ加入することを勧めます。

どういう保険に入るべき?

個人賠償責任保険は、それ単独で入るのは意外と難しく、通常は、自動車保険の付帯保険で入るものです。自動車を持っていない場合は、火災保険や共済保険に付帯できます。
基本的に保険料で選べばいいのですが、できれば示談代行が付いているものにするべきでしょう。
示談代行というのは、保険会社が自分に代わって被害者と交渉してくれるものです。この交渉の負担は精神的にとても重く、また、被害者が暴力団員だったり、クレーマーだったりすると日常生活にも支障が出てくるので、交渉が好きとか特別な人でなければ示談代行付きの保険をまず検討するべきです。

保険金請求で困ったら?

我々のホームページなので,お伝えしたいことは次の二つです。

保険金請求に困ったら,弁護士に相談しよう,できれば,保険に詳しい弁護士に。そして,保険弁護士法律相談所は保険に詳しい弁護士がいるということ,です。

自力でどうにもできない状況を動かそうとすれば,弁護士に相談するしかありません。弁護士に相談してどうにもならないと言われれば本当にどうにもならないのだと思いますが,少なくとも,どうにもならないことが確定することができます。
どうにかできれば保険金を受け取ることができるわけなので,取り敢えず弁護士に相談してはいかがでしょうか。