新年の御挨拶と2022極私的舞台鑑賞記ベスト5

久々に冬らしい寒さが続いておりますが、いかがお過ごしでしょうか。私は元気にしております。

ブログの唯一の更新となってしまっている、恒例の舞台鑑賞記、今年も更新させていだきます(中には仕事もせず遊んでばかりじゃないか等と野暮なことをおっしゃる方も中にはいらっしゃいますが、楽しみにしてくださっている少数の方もいらっしゃいますので・・・)。

昨年も一昨年同様、コロナ禍で休演・中止に追い込まれる公演も散見され、上演に向けて努力を重ねてきた演者の方の苦労と落胆はいかばかりかと思います。昨年は従前よりも出かける公演が多くなったこともあり、印象に残った舞台を5つ挙げさせていただきます。

第5位  ソーニャ・ヨンチェヴァ・リサイタル(7月2日午後2時、東京文化会館)

今が旬のソプラノの待望の初来日ということで、大変楽しみにしていた公演。来日直前のスカラ座の公演を体調不良でキャンセルしたとのことで、絶好調の状態ではなく、全体的に少し抑え気味の安全運転に徹した印象だが、歌唱の隅々まで丁寧に表情を付けるデリケートな表現力、フォルテでも決して絶叫にならない行き届いたコントロール、久し振りに聞きごたえのあるリサイタルであった。大向こうを唸らせるというよりは玄人受けするタイプで、プリマドンナとしては若干地味な印象を受けたのは意外。

第4位  スカーレット・プリンセス (10月8日午後3時、東京芸術劇場プレイハウス)

名前だけは聞いたことが、舞台を見るのは初めてのルーマニアの演出家プルカレーテが鶴弥南北の桜姫東文章をルーマニアの自分の劇団のために翻案したとのことで、物珍しさもあって出掛けた公演。翻案と言っても、歌舞伎のストーリーをほとんどそのまま踏襲する形で、演者も女性の役を男優が、男性の役を女優が演じ、音楽もルーマニアの民族楽器を使って歌舞伎の鳴り物の代用とする趣向。人間の生臭い欲望を遠慮なくぶっきらぼうに掘り下げる演出家の特質と鶴屋南北の戯曲のグロテスクさが相俟って実に見応えのある公演だった。

第3位  リセット・オロペサ、ルカ・サルシ・デュエットリサイタル (9月25日午後3時、東京文化会館)

こちらは今上り調子のソプラノと実力派バリトンのデュエット。オロペサは美人で舞台人としての華もあり人気があるのもわかるが、肝心の歌の方は高音は綺麗に出る一方、中音域の音程が不安定だったり、フレージングが不明瞭だったりと課題も散見され、正直人気先行という印象。歌った中ではルチアやエルヴィーラが彼女の現在の音域に合っていて、椿姫はもう少し声が成熟してからの方が良いのではいう感じだが、人気者故既にレパートリーに入っていて、今年日本でも披露するとのこと。対するサルシは、往年のイタリアバリトンの偉大な歌手たちからすると一回り軽量級の印象だが、全盛期を迎えているであろう美声と丁寧な表現が見事だった。ソプラノとバリトンのデュエットコンサートは意外と珍しい組み合わせで、アンコールで歌った愛の妙薬の二重唱など本当に楽しいものだった。

第2位  メリー・ポピンズ (4月14日午後6時、渋谷東急シアターオーヴ)

ミュージカルとしてはストーリーも含めて、オールドファッションで手垢のついたような作品だが、演出(リチャード・エア)・振付(マシュー・ボーン)が目もつかせぬほどスピーディーでエネルギッシュで、舞台装置を含め本当に夢のような一時を過ごすことができた。演者もいずれも芸達者だったが、主役の濱田めぐみの巧さには驚愕した。

第1位  ペレアスとメリザンド (7月9日午後2時、新国立劇場)

お恥ずかしながら、今まで毎度お約束のように観劇中に眠りこけてしまい、つまらない退屈な作品という印象しか持っていなかったこのオペラの真価が初めてわかった素晴らしい舞台。エクサンプロヴァンス音楽祭で先に上演したものがNHKBSで放映されていたが、未見の状態で鑑賞。メリザンドは歌手と黙役の役者が一人二役で演じるという趣向だが、現代的な舞台装置を背景にこの黙役の役者がメリザンドの心証風景を実に巧みに演じていて、全く飽きさせなかったのがこの運出の妙味。演奏も歌手はいずれも適材適所で、大野監督率いるオーケストラも実に色彩豊かで見事だった。このペレアス然り先述のメリー・ポピンズ然り、作品を生かすも殺すも要は演出家と演者次第だなという当たり前のことを痛感させられた。

本年が皆さまにとって良い1年となりますこと、各々の持ち場において活躍されることを祈念しております。

本年も引き続きどうぞよろしくお願い致します。

新年の御挨拶と2021極私的舞台鑑賞記

皆さま、あけましておめでとうございます。

皆さま、昨今のコロナ禍、いかがお過ごしでしょうか。

当事務所は、本年、無事に事務所開設10年を迎えることができました。これも偏に皆さまの暖かいお支えがあってのことと大変感謝しております。私自身もおかげさまで公私ともども元気に過ごしております。

本年もどうぞよろしくお願い致します。

昨今のコロナ禍においては、私たちの生活様式はじめ、様々なものが否応なく変化を迫られていると言われております。しかしながら、私自身は、こと弁護士業務においては、社会の変化に応じた柔軟な対応も必要ですが、むしろコロナ禍の今においてこそ、対面の法律相談の重要性等、従前の方法論の重要性等を感じている今日この頃です。

のっけから少し固い投稿になってしまいましたが、恒例の舞台鑑賞記、今年も更新させていだきたいと思います(一度アップしていた過去2年分の投稿も後ほど再掲載させていただく予定です)。

昨年もコロナ禍において結構な数の公演が公演中止に追い込まれたり、あるいは収容人数を減らして公演開催されたり、はたまた当日券で行く予定にしていた公演が収容人数制限との関係で売り出されなかったりと、舞台公演の主催者からすると本当にしんどい状況が続いています。そうした中、生の舞台に出掛けると、演者も観客も以前よりも舞台にかける熱量が高いように感じるのは私だけでしょうか。昨年は以前よりもミュージカルに出掛ける機会が増えましたが、その中からベスト3(3位は同率3位で2公演)を挙げさせていただきます。

第3位 ① 東京ゴッドファーザーズ (5月17日午後2時、新国立劇場)

新国立劇場の演劇公演だが、当初は全く興味がなかったところ、一昨年のヴァイオレット、ナインで素晴らしかった藤田俊太郎が演出するとのことを知り、急遽出掛けた公演。クリスマスの夜の東京を舞台に3人のホームレスが遭遇するジェットコースターストリーのアニメが原作の作品だが、限られた舞台装置を変幻自在に変化させてアニメのスピーディーな展開を再現し、息付く暇もなく2時間、まさに「劇場マジック」にかかった夢のような時間だった。役者は、欲を言えば、トキオの松岡君ではなくて、別のもう少し影がある感じがある役者だとなお・・・という気もしたが、彼も含めてどの役者も熱演。主役以外の脇役の演者は一人で複数役を掛け持ちしていて、その演じ分けもえらく達者で驚いた。藤田氏の演出作品はやはり見逃せない。

② ベッリーニ「清教徒」 (9月11日午後2時、新国立劇場)

もうひとつ、同率3位で、藤原歌劇団の上記公演を挙げたい。

ヒロインを歌う光岡暁恵の絶唱でベッリーニの遺作の久しぶりの上演を聴くことができたのは幸せ。他の歌手陣は玉石混合だが、柴田真郁の指揮はスタイリッシュで非常に良かった。演出もオーソドックスで安心できるものだったが、合唱団は皆さん、黒いマスクを着けていて、時節柄やむを得ないが、かなり歌いづらそうで気の毒だった。また、これだけのレベルの上演にも関わらず、ちょっと客入りが悪く、色々な意味で日本でのオペラ公演の難しさを考えさせられた。

第2位 マタハリ (6月23日午後1時半、東京建物ブリリアホール)

私がかつて大感動したネバーセイグッバイ(和央ようかの宝塚引退公演、あれ以来上演されていないような・・・)の作曲家ワイルドホーンのミュージカル。やはり彼の曲はスケールが大きく、メロディーもキャッチーで、非常に聞き映えがする。舞台装置も非常に豪華で大掛かりで、演出も良く知られた世紀の女スパイを等身大の生き生きとした一女性として丁寧に造形していた。役者もダブルキャストで私はあまり知らない人ばかりだったが、皆さん適材適所だった。特に恋人役のアルマンを演じた東啓介が歌はまだ粗削りだが、舞台映えする長身で、ミュージカル俳優として今後が楽しみな存在。

第1位 ロッシーニ「チェレネントラ」 (10月1日午後7時、新国立劇場)

新国立劇場の新シーズンオープニング演目。

ロッシーニのブッファの素晴らしさを久しぶりに満喫できた公演。まずは、今まで手堅い点以外あまり才気を感じることのなかった演出の栗国淳に拍手を。今回の舞台は、場所を映画全盛期のローマのチネチッタスタジオに置き換えて、ストーリーを映画のヒロイン探しに読み替えた軽妙洒脱なもので、イタリア制作の素敵なカラーとデザインの衣装・装置等の力もあり、夢のように美しい、そして楽しい上演となった。つぎに、適材適所の歌手陣の中でも、ヒロインを歌った脇園彩に盛大なBrava!を。心技体全てが揃った絶唱で、ようやくこの人の本領が発揮された素晴らしい歌唱、かつ非常に前向きなヒロイン像を体現する演技であった。他の歌手陣も適材適所で、急遽代役の城谷正博の指揮も手堅かった。

それでは、本年が皆さまにとって良い一年となりますように・・・。

新年の御挨拶と2018極私的舞台ベスト3

皆さま、あけましておめでとうござます。

昨年は本当にお世話になり、ありがとうございました。

今年も何卒よろしくお願い致します。

さて、もはや年1回の舞台鑑賞記を更新するだけのブログになっておりますが、これを楽しみにして下さる少数の方もいらっしゃいますので、懲りずに今年も書かせていただきます。

第3位 ビゼー「カルメン」 (11月25日午後2時、新国立劇場)

新国立劇場の今年の公演は全体的に不作で、それらの中では既に何回か再演を繰り返している「カルメン」が主役に人を得て、思いの外良かった。

カルメンという役、生の舞台では不思議と、メリメの原作に沿った魔性の女に相応しい舞台姿と歌声を兼ね備えた歌い手に巡り合わず、妙にお上品ぶっていたり、変にセクシーさを強調していたり、いつも何か違うと思って帰ってくるのが常であるが、今回の主役、ジンジャー・コスタ・ジャクソンは、妖艶な容姿と適度にハスキーで下品(勿論、いい意味で言っています、褒めています・・・)な声質がカルメンにぴったし。初めて聞く名前の歌い手だったが、既にメト等でもカルメンを歌っているという経歴もうなずける出来栄えであった。容姿は超イケメンだが、歌は全くパッとしないエスカミーリョ(生の舞台では、エスカミーリョも外れが多いような気がする・・・)を除けば、ボリショイのスターというドルゴフのホセ、砂川涼子のミカエラも容姿・歌共に適役。タンゴーの指揮、鵜山の演出も手堅かった。

第2位 プッチーニ「三部作」 (9月6日午後6時半、新国立劇場)

プッチーニの三部作が全て一度で上演されることは稀で、「修道女アンジェリカ」は生の実演で聞いたことがなかったので、大変楽しみにしていた公演。期待に違わず、現在の二期会の総力を挙げた力演で素晴らしい上演であった。

まずは、デンマーク王立劇場他との共同制作というミキレットの演出が秀逸。一見全くテーマや雰囲気が全く異なる3つのオペラに対して、舞台装置や主役に連続性を持たせ、人生の輪廻という大きなテーマを聴衆に対して提起していた。すなわち、外套での、パリの下町の陰惨な汚れた運河を表現した殺風景なコンテナ舞台に始まり、これが修道女アンジェリカでは、コンテナが取り払われて、そのまま、これまた妙に陰惨なサナトリウムのような修道院となり、最後のジャンニ・スキッキでは、一見豪華な屋敷内の様子に代わったかと思うのも束の間、最後にはコンテナ舞台に戻り、三部作が統一された劇として構築されている。主役についても同様で、外套の不倫妻ジョルジェッタが夫に殺された若い情夫の死体を見て絶叫したかと思うと、そのままアンジェリカでは自分の子どもが若くして死んでしまったことを知って自殺する修道女になるといった具合。

また、二期会の歌手陣も上記のように主役は何役か掛け持ちして歌い演じていたが、かなり細かな芝居を演出家の意図に従って丁寧にしていただけでなく、歌も役柄に相応しい水準でよく揃っていた。ド・ビリーの指揮も少し遅めのテンポでオーケストラをしっかり鳴らし、三部作各々の雰囲気を実に味わい深く聞かせてくれて、素晴らしかった。

二期会は昨今あまり上演されていない演目を意欲的な演出等で上演することも多い一方、正直「はずれ」の公演も少なくないが(例えば、7月の「魔弾の射手」、元宝塚女優の集客力を期待してなのか知らないが、コンビンチュニーの演出も日和ってしまっていた・・・)、この三部作は大当たりであった。

第1位 ボーイト「メフィストーフェレ」 (11月16日午後7時、サントリーホール)

バティストゥーニ指揮の東京フィルの演奏会形式の上演。このオペラも日本ではほとんど上演されたことがなく、しかも、ダイナミックで壮麗な音作りをするのが得意なバティストゥーニの指揮とあって、これも三部作同様、本当に心待ちにしていた公演だったが、実に素晴らしく、ボーイトのこの異形のオペラの魅力にノックアウトされた。

バティストゥーニはともすると演目によってはオーケストラを鳴らしすぎてちょっと辟易することもあるのだが、このオペラは鳴らしすぎても足りない位の圧倒的な力感が必要とされるから、彼の長所がそのままこのオペラの魅力を伝えていた。新国立劇場合唱団をはじめとする複数の合唱団で構成されたコーラスもオケに負けず、大迫力で見事。

歌手陣も、スポッティのメフィストは少し善人過ぎてデモーティッシュな迫力には欠けたが、急遽代役で登場のパロンビの明るいイタリア声で歌われたロマンテックなファウスト、まだ若手とは思えない陰影のある表情豊かなテレーザ・リーヴァのマルガリータ/エレーナ、いずれも素晴らしかった。

バティストゥーニ、ザンドナーイ、レスピーギ等の近現代のオペラも勉強・研究しているようだから、今後、これらの秘曲の上演も期待したい(レスピーギの「ラ・フィアンマ」なんか彼にぴったしのはず)。

今年一年、良い舞台に巡り合えますように・・・。

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新年のご挨拶と2017極私的舞台鑑賞記

皆さま

あけましておめでとうございます。

今年は、ここ数年にないほど穏やかな気持ちで新年を迎えることができております。
感謝と胸のうちに秘めた想いと共に、今年も歩んでまいりたいと思います。
 
さて、毎年お約束、かつ、このネタでのみブログを更新している、恒例の舞台鑑賞記、お送りさせていただきます。
と書きながら、手帳を基に記憶を辿ると、鑑賞数もかなり少なく、おまけに例年にない不作ぶりで、不満や怒りを通り越して「お金返して」というようなものが多く、その中でベスト3を選ぶのはなかなか難しいものがありました。

第3位 フィオレンツァ・チェドリンス・リサイタル (7月3日 武蔵野市民文化会館小ホール)
かつては新国立劇場の公演で頻繁に来日していたイタリアの名花、久々の来日リサイタル。
最近、世界の檜舞台でもあまり名前を聞かなくなっていたが、ほとんど声の衰えも感じられず、往年の美声と細やかな感情表現は健在であった。
ノルマやフォヴァリアータのベルカント物からヴェルディ、プッチーニ、ヴェリズモまで幅広いレパートリーをうたったが、やはり彼女の本領はプッチーニ、ヴェリズモ。特に、アドリアーナ・ルクブルールのヒロイン登場のアリア、美しい容姿も相まって、一瞬にして女優アドリアーナが舞台に登場した。彼女のように往年のイタリアのプリマドンナらしいエレガントなソプラノ、他にあまりいないと思うので、トスカ、アドリアーナ、マノン・レスコー辺り、来日して歌ってもらいたい。

第2位 ドニゼッティ「ルチア」(3月26日 新国立劇場)
新国立劇場では珍しいベルカント物の新演出の舞台。
ルチアと言えば、ヒロインの出来いかんに成否がかかるといっても過言ではないが、ロシアの新鋭、オルガ・ペトレツェッコがかつてペーザロで聞いたひ弱な歌からすっかり脱却して、テクニック、表現共にまずまず聴きごたえある歌唱を聴かせてくれた。彼女の本分はルチアではなくてやはりロッシーニにあると思うし、ルチアにしては表現が少し明る過ぎてやや物足りないが、容姿も美しく、なかなか魅力的なルチアであった。エドガルドのジョルディのノーブルな歌唱と舞台姿、エンリーコのルチンスキーの高慢さが滲み出た歌唱、と他の主役級のキャストも揃っていた。
グリンダの演出は、プロジェクターを使用した映像が斬新だった一方で、舞台自体は演技も含め非常にオーソドックスで陰惨な中世のスコットランドの雰囲気を十二分に伝える優れたものであった。

第1位 ワーグナー「ジークフリート」(6月17日 新国立劇場)
飯守監督の渾身の指輪四部作の最後を飾った神々の黄昏を所用で行けなくなったため、ジークフリートを今年のベストに挙げたい。
フィンランド国立歌劇場からレンタルしてきた故ゲッツ・フリードリッヒの演出は、今や古色蒼然としていて、大蛇とジークフリートの対決のシーンをはじめ、もう失笑するしかないというレベルであったが、その一方で飯守監督のインテンポで引き出すオーケストラのうねりに、グールド、グリムスレイ、コンラッド、メルベート等の粒ぞろいの世界的歌い手が絶唱で応えていた。

今年が皆さまにとって良い一年となりますように。

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ブログ記事の一部復旧のお知らせ

皆様、御世話になっております。
過去に掲載していたブログ記事がいつの間にか消滅してしまっていたので、
保存していた原稿の中から2016極私的舞台ベスト3以外の主な記事を
再掲載させていただきます。
今年はまだ暖かいですが、御身体くれぐれも御自愛ください。

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極私的舞台2015ベスト3

皆さま、あけましておめでとうございます。

昨年は大晦日ギリギリまで事務所の作業等に追われる状態で、自宅の部屋の片づけ等が全く手つかずのまま年明けを迎える始末になりました。元旦、家族で行う恒例の行事を済ませ、日帰り温泉に出掛けて、ようやく一息つけました。というわけで、三が日は年明け早々部屋の片づけ等をして過ごすことになりそうです。

さて、もはや一年に一回、しかも、舞台観劇記しか更新しない、このブログですが、これを楽しみにされているごく少数のお客様、友人もいるようなので、今年も書かせていただきます。

昨年は、私の長い長い舞台鑑賞歴において信じられない出来事がありました。11月に大好きなトスカを新国立劇場で鑑賞していたところ、とにかく音楽を聴いているのが耳障りでしんどいという気持ちになったのです。演奏が悪かったわけではありません。シーリのトスカはまだ粗削りなところは散見されるものの将来楽しみなヒロインぶりでしたし、他の歌手も水準以上、舞台も極めてオーソドックスな舞台で、視覚的にも美しいものでした。確かにオケが鳴り過ぎな印象はありましたが、それにしてもオペラを見聞きしていて、苦痛に感じるというのは初めての出来事でした。この話を親友の出版社の友人に話したところ、「普段負荷の相当かかる仕事をしているから、感情がダイレクトに伝わるオペラ等を身体が受け付けないようになったんじゃないか」との指摘を受けました。私自身はあまり意識はしていませんでしたが、加齢と環境がそのような心境に追い込んだことには若干心当たりがありました。いずれにしても、今年は心身を健全に保ちつつ、常に新鮮な感覚を忘れずに物事に取り組んでいきたいと思います。話を元に戻しますが、一昨年以上に舞台に出掛ける機会は減っていたようで、その中で一応ベスト3をあげたいと思います。

第3位 ヴィヴァルディ「メッセニナの信託」(3月1日、神奈川県立音楽堂)

日本では上演が稀なバロックオペラの、しかも世界水準での舞台上演。ビオンディが振るエウローパ・ガランテがオケに入るというだけでも上演の成功は約束されたようなものだが、実際はそれ以上。人間の喜怒哀楽が驚くほどリアルに耳に突き刺さり、3時間半の決して短いとは言えない上演があっという間。当代きってのバロックの世界的歌い手の歌唱も聴きごたえがあったが、中でもユリア・レージネヴァは出色の出来栄え。彌勒忠史の演出も狭い舞台空間を効果的に活かし、まるで能舞台を見ているかのような美しいモダンな舞台を作り出していて、非常にセンスが良かった。これと対比する訳ではないが、10月8日に紀尾井ホールで上演されたペルゴレージ「オリンピアーデ」も珍しいバロックオペラの貴重な上演で、林美智子をはじめとする日本人歌手も大健闘していたが、某演出家の凡庸な棒立ち演出がすべてぶち壊していた。

第2位 ヴェルディ「椿姫」(5月16日、新国立劇場)

私が偏愛し、ヴィオレッタのパートはほとんど諳んじているくらい個人的にも思い入れのある役だが、生の舞台ではほとんど満足したことがない難しいオペラ。ベルナルダ・ボブロのヒロインは、決して美声ではなく、声量はやや乏しいし、技術的にも十全とは言えないので、いわゆるプリマドンナ然としたヒロインを期待する向きには全く受けないと思う。しかし、彼女の体当たりの役作り、ひたむきな真摯な歌いぶりには、ヒロインが必死に血反吐を吐きながら生きている切実さが確かに感じられ、また、彼女の声量がやや乏しい故、聞いている方も意識して歌声を聞き取ろうとせざるを得ないこともあり、とにかく私はこのオペラの生の舞台で初めて涙した。最近、加齢もあるのか、こういう歌手・演者のタイプに涙もろくなっているだけなのかもしれないが・・・。イブ・アベルの指揮も緩急豊かで、タンタカタンタカという定型的な音にも意味があることを感じさせる優れたもので、ボブロを支えていた。映画監督出身というプサールの演出は、舞台床まで鏡を使い視覚的には若干煩わしいところはあったが、写実的でセンスの良いものであった。

第1位 愛の伝説 (11月27日 東京文化会館,マリンスキーバレエ来日公演)

グリゴロービィチの珍しい演目の国外初上演。ソ連時代の愛国物という演目の内容には少し古めかしさを感じるが、オリエンタルな音楽、シンプルでありながら目を凝らしていると豊かな感情表現が感じ取られる象形文字のような振付、そしてグリゴロらしいダイナミックな男性群舞、と個人的には非常に楽しめるバレエであった。ソリストはいずれも高水準で各々の役に良く合っていたが、やはり衰えたりとはいえ、ロパートキナのバヌーが出色。嫉妬とか怒りとか女性の嫌な部分を積極的に表現する必要がある役だが、あまり従来彼女の演じる役では見たことのないような強い役作りが印象的だった。ただ、別演目のジュエルズでも感じだが、バレエ団のコールドのレベルが驚くほど下がっていて、有名どころ以外のソリストのレベルも今一つだったことも含め、今後が少し心配になった。

今年も皆さまにとって良い一年となりますように。

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新年のご挨拶と極私的2014舞台ベスト3

新年あけましておめでとうございます。皆様のご支援とお引き立てを頂戴し、当事務所も本年設立三年目を迎えることができました。本当にありがとうございます。どうぞ今年もよろしくお願いいたします。

ホームページについては忙しさにかまけて、ブログをはじめほとんど更新しておらず、先ほどホームページについては若干の変更をさせていただきました。 そして、もう年は明けてしまいましたが、恒例の舞台ベスト3(昨年以上に出掛けることが少なくなり、ベスト3の選択がやっとできる程度の鑑賞歴でございます)のご紹介をさせていただきます。

第3位 カールマン「バヤデール」(9月21日、ブタペストオペレッタ劇場)

http://www.operett.hu/musor/emmerich-kalman-the-bayadere/62/5778/10

仕事で出掛けたブタペストで見た舞台。カールマンの名前も聞いたことのないオペレッタだが、何しろ前評判が高く、事前にチケットを押さえられず、劇場の窓口に直接出掛けて開演3分前にチケット売り場のおばちゃんが机の奥から伝家の宝刀を抜くように一枚出してくれたチケットで入場。パンフレットは全てハンガリー語で、英語のあらすじもなく、物語もよくわからないまま観劇したが、音楽がオリエンタル情緒の交じる魅力的な曲であるし、華やかで楽しい舞台。ストーリーもこの手のオペレッタにはありがちの身分違いの恋愛物語で、今回はインドの貴族とプリマドンナの恋物語に狂言回しの劇場支配人やサブの男女の恋物語が絡まり、最後はめでたしめでしたというもの。役者達は、歌に芝居にアクロバットに大活躍かつこれらを大変な高水準でこなしていて、オペレッタ協会の寺崎理事長がよくおっしゃっていたオペレッタにおける「歌役者」というものがどういうものであるのかとてもよくわかると同時に、あまり言いたくはないが日本人にはなかなかこのレベルでの上演はちょっと無理だろうなとも痛感させられた。聴衆と役者が一体となって楽しみ、盛り上がる雰囲気が素敵で、アールデコの美しい劇場の内装も含め、楽しさという点では今年一番の舞台。その他、ブタペストでは、ドホナーニのオペラ「DER TENOR」、ヴェルディ「ドンカルロ」のエリザベッタ役エステル・スメギの豊かな美声と美しい舞台姿(ウィーン等でも歌っているようだが、これだけの歌い手が国際的に知られていないのは本当に不思議)等、非常に充実した観劇ができ、かつ、値段も国立オペラの最高席で5,000円程度とびっくりするほど安かった。

第2位 ヴェルディ「シモン・ボッカネグラ」 5月25日 東京文化会館 ローマ歌劇場来日公演

http://roma2014.jp/simon.html

私の大好きな渋いヴェルディのシモンの初舞台観劇、しかもムーティの指揮するローマ歌劇場の来日公演ということで、非常に楽しみにしていた舞台だったが、期待以上だった。ローマ歌劇場のオケとコーラスは現地でも聞いたことがあるが、スカラ座と比較すると二段も三段も落ちるというイメージを持っていたが、さすがにムーティが芸術監督になってからは目まぐるしくレベルアップしたようで、ムーティの全体的に早めで、緩急をたっぷりつけた指揮に良く応えていた。歌手陣もすっかり世代交代していて、ガブリエーレのメリ(お見事!)以外は初めて聞く歌手陣だったが、主役のぺテアンの息の長いフレージングによる等身大の役作りはじめ、非常に良かった。演出もムーティの選択したプロダクションらしく、オーソドックスで美しい舞台で、特に第一幕の背景の海の色などイタリアらしい色使いだった。

第1位 ワーグナー「パルシファル」 10月11日 新国立劇場

http://www.nntt.jac.go.jp/opera/parsifal/

新国立劇場の2014-15シーズンの開幕演目。私がワーグナーで最も大好きなパルシファルということで、今回は仕事の合間に台本も読み込んで(それでもストーリーが今ひとつよくわからない・・・)、観劇した舞台。新芸術監督の飯森の指揮は賛否両論あったようであるが、確かに少しオールドファッションであるとしても、これだけたっぷりゆったりとしたテンポで包み込むようなサウンドというのを私ははじめて聞いた気がするし、大変に聞き応えがあった。クップファーの演出は、西洋人が東京で新演出するので仏教の輪廻思想も持ち出してみましたという、ある意味わかりやすい演出だったが、これもこの音楽には非常によく合っていた。歌手陣もフランツ、ヘルツィリウス、トムリンソン、シリンズ、とそのままバイロイトかドイツの主要歌劇場で上演したとしてもおかしくない高水準。それにしても、このパルシファルの底光りするような音楽の美しさ、本当に素晴らしい・・・。

最後になりますが、今年も皆様にとってよい一年となりますように。

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極私的2013舞台ベスト5&番外編(美術展)

あと少しで年越しでございますが、年越しそばを食べて、紅白を見ていたのですが、あまり面白くないので、以前から暖めていた企画を年末最後に投稿させていただきたいと思います。

私の息抜きは、仕事の合間を見つけて目ぼしいオペラ等の舞台に出かけることと美術展に出かけること、日帰り温泉に出かけてまったりすること、親しい友人とおいしい物を食べ歩くこと等です。舞台に出掛ける時は、劇場の活き活きした空気に触れて、夢心地の異次元の世界に誘ってもらえることを期待しますし、美術展に出かける時は、1時間か1時間半の間、仕事のストレスを忘れ去って、美しい忘我の世界で遊ばせてもらいたいと思って、美術館に向かいます。

しかし、現実は、劇場の開演時間に遅刻しロビーで次の休憩時間まで待たされる、客席で日頃の疲れのため(あるいは舞台がつまらない、演奏が退屈等という理由のこともかなりの確立でありますが、笑)寝入ってしまい半分くらい舞台を見ていない(一番ひどかったのは、数年前の年末に国立劇場で真山青果の元禄忠臣蔵通しをやったとき、休憩時間以外ほとんど寝ており、気が付いたら討ち入りが終わっていたということがあります)等ということがままあります。

それにも関わらず、「当たりの舞台」に当たった時の舞台の魔力には勝てず、とりあえず先の予定が立っていなくとも、目ぼしい舞台のチケットは早めに買って、可能な限りスケジュール調整をして、足を運びます。そうは言っても、仕事の関係等で行けなくなることも多く、その場合には家族や友人にチケットを上げて、事後に感想を聞くことで我慢します(「素晴らしかった」、「良かった」等と聞くとちょっと悔しい気はしますが・・・)。

今年は事務所を立ち上げたこともあり、例年になく劇場に足を運ぶ機会が非常に少なく(新装なった歌舞伎座にも仕事の打ち合わせで銀座に行った際に前を通っただけで、芝居は見ていませんし、ミュージカルは一本、演劇はゼロです)、また、せっかくのヴェルディ・ワーグナーの記念年なのに食指が動く舞台もほとんどなく(スカラ座の来日公演で何でドゥダメルのリゴレットとハーディングのファルスタッフを高額チケット買って見に行かなければならないの?、ガラコンサートだけは行きましたが、あまりぱっとしませんでしたね、スチュアート・ニールの巨体と歌のガサツさににはびっくり致しましたが・・・)、行った舞台も今ひとつのものが多く、正直申し上げて、あまりぱっとしない一年でした。

本来であれば、この手のものはベスト10発表といきたいところですが、上記のような事情で個人的には何とかベスト5を発表するのがやっとというところでございます。

第5位 ラ・フィアンマ(7/28 新国立劇場中劇場)
この大好きなレスピーギの秘曲オペラを取り上げてくれた東京オペラ・プロデュースの果敢な挑戦に敬意を表して。手元にある愛聴盤のローマ歌劇場の壮絶な演奏の迫力には遠く及びませんが、この曲の持つ一種独特のカタルシスの幾許かは感じることができました。オーケストラはなかなか健闘していたと思います。ただ、このオペラ、大半の人はつまらないと言うんでしょうねぇ。

第4位 ホフマン物語(12/1 新国立劇場大劇場)
新国のこのプロダクションを見るのはたぶん3回目だと思いますが、演奏自体は今回が一番よくまとまっていたように思います(初演の際には、今や飛ぶ鳥を落とす勢いのフォークトのホフマンの清冽な歌唱、二回目の時のガランチャのズボン役は今でも印象に残っていますが、プロダクション自体はあまりまとまりがなかったような印象です)。何よりもシャスランの指揮が緩急をたっぷりつけて、この幻想的なオペラの雰囲気をしっかり表現できていましたし、歌手陣も突出した人がいない代わりに、各々が役柄にふさわしい柄のしっかりした歌唱を披露していました。年末に大好きなホフマンを聞けて幸せでした。

第3位 アイーダ(3/24 新国立劇場大劇場)
このゼッフィレルリの著名なプロダクションを見るのも数回目ですが、上演されるときには必ず足を運んでいます。新国立劇場開場記念の際の、当時全盛期のホセ・クーラの輝かしいラダメスと多少粗いもののグレギーナのアイーダのドラマティックなド迫力は今でも鮮烈に記憶しています。今回はヴェルディ・ワーグナーの記念年なのにぱっとした舞台がなかったこと、やはり何回見てもいい意味でトラディショナルなオペラの舞台の見本と言うべきゼッフィレルリの舞台作りが美しいこと、コルネッティのアネムリスが素晴らしかったことに鑑みて、ここに挙げさせていただきます。

第2位 ハムレット(9/1 神奈川県民ホール)
欧米ではここ数年割と上演されていますが、たぶん日本初演のトーマのオペラ。首都オペラという団体の演奏は初めて聴きましたが、基本的にはアマチュアのオペラ団体ということであまり期待しておりませんでしたが、これがなかなかどうして熱のこもった立派な出来栄えで、下手なプロ団体のつまらない上演よりもずっと良かったです。それに加えて、特筆すべきは、この日の主役、森口賢二さんのハムレットの素晴らしさ。少し前の藤原歌劇団のロッシーニのセビリャの理髪師のフィガロもコミカルでよかったですが、今回、フィガロとは正反対のくらーいインテリの役を芝居も含めて、見事に演じ切っていました。今後の活動をぜひチェックして追いかけさせていただきたいと思いました。

第1位 アンドレアス・オッテンザマー・クラリネットリサイタル(5/13 武蔵野文化会館(小))
平日夜7時に三鷹、しかも駅から徒歩10分弱というのはかなりハードルがありますが、武蔵野文化事業団の主催のコンサートは、目ぼしいものは発売日にチケット買わせていただいております。ピアノにしろ、ヴァイオリンにしろ、声楽にせよ、話題の若手の演奏を1000-3000円程度で聞けるというのですから、目ぼしい公演のチケットはすぐに売切れてしまいます。私自身、20年以上前からここの公演には足繁く通わせていただき、いわば「生活の一部」になっていると言っても過言ではないかもしれません。
今年は、オペラ・バレエ等に目ぼしいものが少なかったこともあり、このベルリンフィル主席奏者というイケメン、オッテンザマーのクラリネットが一番印象に残りました。古典からジャズまで易々と弾き抜く演奏技術の高さ、音楽性の高さ、びっくりするような美しい音色、夢のような時間でした。ピアノ伴奏の菊池洋子の感受性豊かな美しいピアノも見事でした(この人は今度ソロコンサートに行ってみたいと思います)。
なお、武蔵野の公演では、他に、ソプラノ2人のコンサートも印象に残りました(9/13 セダ
・オルタック、まだ相当荒削りですが、トゥーランドット、マクベス夫人、ジョコンダ、アビガイッレという重量級のレパートリーを物凄い声量で歌い上げていて、この手のドラマティックソプラノ大好きな私としてはたまらなかった、10/8 ベアトリス・ディアス、まだ若さは残るものの、美声かつ表現が多彩で、美しい外見によらず、意外に喉も丈夫そうで、ステージプレゼンスも含めてとても素敵な歌い手でした)。

番外編 狩野山楽・山雪展(京都国立博物館)

舞台同様、今年は美術展に出かける機会も例年になく少なかった一年でした。その中でダントツに素晴らしかったのが、5月の連休に出張に合わせて無理して出かけた京博の狩野山楽・山雪展。閉館時間になり学芸員に会場追い出されるまで、二時間ほど「美の桃源郷」でうっとりさせていただきました。東京と違って、これだけの展示会にも関わらず、あまり人が入っていないのもびっくり。

という訳で、大晦日の十時半から書き始めたこのマニアックな記事、何とか年越しまでに書き終えることができました。読んでいただいた方、ありがとうございました。

来年も素晴らしい舞台・美術展に出会えますように。